自分の確定申告で、会計ソフトの画面をAIに直接操作させてみました。仕分けしていない取引が449件あって、それが0件になりました。
作業は1日がかりで、半分は画面の重さとの戦いでした。
ただ、終わってから気づいたことがあります。AIが詰まった場所を並べてみたら、会計とは関係のない形が出てきました。
① 仕事は、4つの層でできている
「AIに任せられますか」と聞かれると、実は答えづらいです。人によって「余裕でできる」と「うちは無理」にきれいに割れます。
今回、詰まった場所を全部並べてみて思ったのは、同じ言葉で違う層の話をしている、ということでした。
仕事はだいたい、こういう4つの層でできています。
| 層 | 中身 | 誰がやるか |
|---|---|---|
| 操作 | 画面を触る、打ち込む、転記する | ほぼAIに渡せる |
| 基準 | どれをどう処理するかの決まりごと | 渡せる。ただし出どころが要る |
| 文脈 | 記録に書かれていない現場の常識 | 言葉にすれば渡せる |
| 決定 | 最終的にどうするか、責任を持つ | 渡さない |
下に行くほど機械の仕事で、上に行くほど人の仕事です。順番に見ていきます。
② 操作 ― ここはもう、ほとんど渡せる
449件は、AIが会計ソフトの画面を自分で開いて、1件ずつ科目を選んで登録していきました。クリックも入力も、人がやるのと同じ手順です。
AIはチャットで質問するもの、という感覚だと意外かもしれません。画面をそのまま触れる道具が、普通に出てきています。
ただ、境目もありました。ルールの一覧をソフトに取り込むとき、「ファイルを選択」を押すところだけは私がやっています。
セキュリティ上、ファイルを選ぶ操作は人がやる仕組みになっているそうです。
操作の層は、もう論点ではなくなってきています。
会社で困っているのは、たぶんこの層ではなく、上の3つのほうです。
③ 基準 ― 渡せる。ただし、どこから持ってくるかで結果が変わる
最初、AIに「この明細は何費だと思う?」と推測させました。結果はバラバラでした。
chocoZAPの7件が、会議費・雑費・通信費・消耗品費・仕入高に分かれています。同じ店なのに。
そこで、去年の帳簿を全部読ませました。2025年度の仕訳1,331件です。摘要ごとに、去年どの科目を使ったかを数えさせました。
出てきたのはこういう表です。
| お店・摘要 | 去年の科目 | 件数 |
|---|---|---|
| ENEOS | 車両費 | 18件 |
| Amazon購入品 | 消耗品費 | 48件 |
| APPLE COM BILL | 通信費 | 17件 |
これを基準にしたら、ぴたりと揃いました。AIの推測ではなく、去年の自分の処理に合わせただけです。
基準は、AIの中にはありませんでした。
自分たちの過去の記録の中にあります。ここが分かると、話が変わってきます。
「うちにはデータがないからAIは無理」ではなく、過去のやり方はどこに残っているかを探すのが最初の仕事になります。
帳簿、日報、メールの返信履歴、ベテランの手元のメモ。だいたいどこかにあります。
④ 文脈 ― 書いていないことは、そのままでは渡せない
カード明細に、こういう文字列が並んでいました。
ラクテンペイ*ゴ-ラクテンペイ*アタゴコウツウラツキ-グル-プハル
AIは全部「雑費」と判定しました。正解は全部、旅費交通費です。タクシーアプリのGO、愛宕交通、春雨タクシー。
長崎の人なら「愛宕交通ってタクシーだよね」で終わる話なんですよね。
決済を通ると店名は削られてカタカナになるので、文字だけ見ても分かりません。AIには、その土地の知識がないからです。
裏返すと、現場の人が持っている「言わなくても分かる」が、そのまま価値になっているということでもあります。
ただ、言葉にすれば渡せます。
この3つも、ルールに書いたら次からは通りました。渡せない層ではなく、書き出す手間が要る層、という言い方が近いと思います。
みなさんの業種にもこういう「言わなくても分かる」があるはずで、そちらは私にはさっぱり分かりません。
⑤ 決定 ― ここは渡さない
レシートに「1名」と印字されているものがありました。AIは「一人での食事なので経費にならない」と判断しました。
本人に聞けば話は違って、別会計にしていただけで相手はいました。一方、深夜のファミレスで一人の分は、本当に一人で作業していた分です。
同じ「1名」でも中身が違います。
レシートに書いていない事実は、AIには分かりません。
能力の問題ではなく、情報がそもそも存在していないだけです。記録を持っている本人にしか分からない。
なので、AIを入れるときに先に決めるのは「AIに何をさせるか」ではなく、何を人間が決めるかのほうだと思っています。
この4層は、どの仕事にも出てきます
会計だから特別、ということはなさそうでした。たとえばこんな形です。
見積
- 操作 ― 書類を作る、送る
- 基準 ― 過去の見積の値付け
- 文脈 ― あのお客様は急いでいる
- 決定 ― 出すか、断るか
シフト
- 操作 ― 表を組む、配る
- 基準 ― 去年の同じ週の人数
- 文脈 ― あの2人は組ませない
- 決定 ― 最終的な責任
問い合わせ対応
- 操作 ― 返信の下書き
- 基準 ― 過去の回答文
- 文脈 ― 言い方の温度感
- 決定 ― 送るかどうか
真ん中の2つが会社ごとに違うところで、たぶんそこが一番おもしろいところです。
まとめ
- 「AIに任せられるか」は2択ではなく、4つの層に分かれます
- 操作はもう渡せます。基準は、過去の記録から持ってくれば渡せます
- 文脈は言葉にすれば渡せます。決定だけは渡しません
- 最初にやることは、自分の仕事のどの層で詰まっているかを言葉にすることです
次回は、この4層にどの順番で手をつけるかを書きました。
今回の作業で一番効いたのは、実は449件を片付けたことではありません。「AIに「やらせ続ける」と、来年も同じことをやる」に続きます。
「うちの場合、どの層で詰まってるんだろう」と思ったら
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この記事は、AIツールを実際の業務に使ってみた記録です。筆者は税理士ではありません。
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